2015年1月号 オトガイの意味

皆さん、明けましておめでとうございます。平成27年も宜しくお願いします。

今回は最近読んだ本で見つけた、面白いエピソードをご紹介します。

以前、比較解剖学という学問についてほんの少しだけ触れましたが、これに関する本です。
その名もずばり、「頭骨コレクション」(福田史夫著 築地書館発行)。著者は野生動物の調査を行っている動物学者で、いろいろな動物の頭骨を観察して得られた知見をまとめてあります。当然ながら歯や顎骨についての記述が多く、大変興味深い内容でした。

人間の身体の中でオトガイというのは何処かご存知でしょうか。漢字では「頤」と書きます。これは唇の真下の下顎の先端、尖った部分です。このオトガイが出っ張っているのは人間だけで、他の動物では見られないのです。それには理由があって、サルからヒトへの進化の過程における食物摂取の仕方の大きな変化によるものだそうです。
野生の動物では、歯で獲物を捕らえたり、咬み切ったりして、口内で咀嚼分解し、胃腸内で消化吸収をしなければならないのに対し、ヒトでは手や道具を使って食物を小さく切り分けたり、チーズや酒のような発酵食物を作り出すことで咀嚼や分解、吸収の大部分を口外で行い、歯や口を使わなくて済むようになりました。そのために歯が小さくなって歯が生えている歯槽と呼ばれる部分が後退してオトガイが形成された。つまり、オトガイが出っ張ったのではなく、歯の生えている部分が引っ込んだという事だそうです。
これは何をを意味しているかというと、これらの変化は急速に起こっているので、歯と骨との結びつきが弱くなって、現代人は歯周病になりやすいことが骨の変化からも理解できると言うのです。
大人になってからでは遅いかもしれませんが、成長期には堅いものを何度もしっかり咬む習慣をつけて、顎骨が強くなるようにすべきですね。

昨年11月に診療台を1台新しくしました。従来のものと最も違う点は、照明がLEDになった事でしょうか。診療室の一番奥にあるので、機会があればその違いを見てください。